診療について
慢性腎臓病(CKD)の薬物治療について原泌尿器科病院
薬剤部 腎臓病療養指導士 逸見 由紀子
慢性腎臓病の治療薬について、吉矢医師から2021年7月号のコラムに掲載がありました。
今回薬剤師の立場から、薬についての注意点をお話しします。
薬には、主に腎臓から排泄されて体から消失するものと、肝臓で代謝を受けることにより消失するものが
あります。全医薬品中の1~2割がそのような腎排泄性薬剤です。
腎臓から排泄される量が多い薬は、腎臓の機能が低下すると体の中にたまって、大量の薬を飲んだ時と同じ
ような副作用が現れる危険性があります。そのため、尿に排泄される割合に応じて投与量を減量や中止する
必要があります。減量する場合、1回の投与量を減らしたり、投与間隔を延長します。
腎臓は最も重要な排泄臓器ですから、高濃度の薬物にさらされやすいこと、細い動脈でできているため血流
低下(虚血)の影響をうけやすいこと、さらに免疫反応が起こりやすい、毒性物質に暴露されやすい、活性
酵素による障害を受けやすい、などが原因で薬の副作用によって腎臓が悪くなることがあります。
ただし早期に原因薬剤を発見し、中止することで腎機能が回復することは可能です。
当院の腎臓内科でも、薬剤が原因で腎機能が悪化した患者さんが年間4.8%発生しています。
腎障害を起こさせる薬は、できる限り投与を避けることが望ましいと思われます。
*痛み止めの連用
*造影剤
*骨粗鬆症に用いるビタミンDやカルシウム製剤
*脂質異常症に用いられる薬
*利尿薬(脱水により腎機能を悪化させる)
*ヘルペスの薬等
腎機能は加齢による影響を受けやすく、もともと腎疾患を持っていない方でも80歳では20~30歳の
健常者の半分の腎機能と考えられます。そのため、腎臓から排泄される割合の高い薬物を投与される場合
は副作用が起こりやすくなります。
また体調が悪い時に、腎機能が低下することがあります。
よく見られるパターンは、風邪から発熱・脱水を起こし、腎臓への血流が減少することによって腎機能が悪化する例があります。日常生活の面としては、過度の運動・肉体労働、感染、脱水、他の臓器障害があることも、腎機能を悪化させる要因です。
漢方薬は生薬由来であり、副作用はないように考えている人も多くいます。漢方薬は数種の成分が含まれる
ため、その効果は多岐にわたり、体質や体調によって効果が変わります。
「副作用」を「薬をのんだときに現れる本来の目的以外の作用」であると考えると、漢方薬にも副作用はあります。風邪の症状で使われる漢方薬で血圧が上がったり、主に甘草(カンゾウ)を含む漢方薬では長期の飲み続けることで低カリウム血症、血圧上昇、浮腫などを示す(偽アルドステロン症)ことがあります。
カリウムを多く含む漢方薬もあり、腎障害のある患者さんは、高カリウム血症に注意が必要です。
過去には1990年代に植物由来のアリストロキア酸による腎障害が報告されています。
塗り薬でも皮膚から吸収され、血中へ移行し腎臓から排泄される薬があります。
ビタミンD軟膏で高カルシウム血症となり、腎障害を起こすことが報告されており、注意が必要です。
市販薬は腎機能が正常な人での用法・用量のため、腎臓から排泄される薬だと腎機能が低下している人には量が多くなってしまいます。
また、湿布薬でも皮膚から成分が吸収されるため、肩も背中も腰も膝も….と大量に貼るのは避けましょう。
胃薬によく含まれている制酸剤などにはアルミニウムやマグネシウムが含まれています。
アルミニウムは私たちが日常口にする食べ物や飲み物、食品添加物や医薬品などに含まれています。健常な人が通常の食事などで摂取するアルミニウムは人体にとって特に有害ではありません。しかしながら、体内に取り込まれたアルミニウムは、主に腎臓から体外へ排泄されるため、腎機能が低下した人ではアルミニウムを体外にうまく排泄することができず体内に蓄積します。蓄積したアルミニウムはアルミニウム骨症やアルミニウム脳症を起こす危険があります。
また、マグネシウムを含有する薬も長期大量使用すると、高マグネシウム血症を起こすため注意が必要です。
サプリメントは食品同様に思われやすいですが、中には腎臓から排泄される成分が含まれていることがあります。腎機能が低下している患者さんは、薬局・薬店で薬を購入する際には薬剤師に相談してください。
腎機能が低下してくると腎臓の機能を薬で補うため、服用する薬の種類・数が増えてきます。
また様々な合併症を発症し、複数の診療科を受診することがあります。
そのため、お薬手帳を必ず携帯し医師・薬剤師に見せて、安全かどうかを確かめてもらう必要があります。
当院では、お薬手帳に腎機能を表示したCKDシールを貼って注意喚起に努めています。
血液検査のデータを調剤薬局に提示することも、有効です。
お薬手帳は一つにまとめ、かかりつけ薬局・薬剤師をもつことで、お薬手帳を上手に活用しましょう!