診療について
原泌尿器科病院 腎臓内科部長
透析センター長 吉矢邦彦
慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症などの腎疾患が進行し、
(1) クレアチニンが上昇し推定糸球体濾過量(eGFR)が60 ml/min/1.73㎡未満になる あるいは、
(2) 蛋白尿、血尿などの異常尿所見が3カ月以上持続する
以上の状態を、慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)といいます。
CKDは自覚症状に乏しいことが特徴であり、自分では気が付かずに健康診断や病院の検査で偶然見つかることがよくあります。CKDは進行すると治らない慢性腎不全に進行し、結局は人工透析になることがあります。
一方、健康診断で発見されるCKDには、軽症で慢性腎不全に進行しない症例も沢山あります。
従って、早期にCKDを正確に診断し、適切な治療を実施・継続することが大切です。
当院の腎臓内科外来では、CKDの治療に積極的に取り組んでいます。
治療は食事療法と薬物療法を基本として、日常生活をコントロールすることです。
残念ながら特効薬があるわけではありませんが、食事療法と薬物療法を組み合わせて日常生活をコントロールすればCKDの重症化予防が可能であり、人工透析に入る時期を先延ばしにできます。
CKDとは腎臓の機能が働かなくなった状態です。主な腎臓の機能は、
1.血液の運んできた老廃物:たんぱく質の代謝産物である尿素窒素(BUN)、クレアチニンなどの排泄。
2.体内の水分量を一定に保つ働き
3.ナトリウムやカリウムなどの電解質、酸塩基のバランスを一定に保つ働き。
4.エリスロポエチンという赤血球を作るホルモンの産生、レニンという血圧上昇に関係するホルモンの産生。
5.ビタミンDを活性化して骨を作る作用。
などがあります。
CKDでは以上の1~5つの機能が少しずつ低下していきます。
ゆっくりと病気が進行するため自覚症状がほとんどありません。
CKDに対する治療の基本は食事療法です。たんぱく質と塩分とカリウムを制限しながらカロリーを十分に摂ります。
低たんぱく食の実行には、低たんぱく米などの治療用食品の利用が不可欠です。患者さんの標準体重あたり1日0.6~0.8g/kgすなわち1日に35~45g程度のたんぱく質の制限が必要です。
塩分は、1日6g程度に制限します。高カリウム血症があればカリウム制限が必要になります。
カリウムは生野菜に多く含まれますが、細かく刻む、茹でこぼす、火を通すことで少なくなります。
また果実の食べすぎも注意が必要です。
十分なカロリー(1日に標準体重あたり30~35kcalすなわち1日に1600~2000kcal程度)を摂取することで、腎臓の負担を軽くすることができます。
以上の食事療法は簡単ではありませんが、管理栄養士に繰り返し栄養指導を受けること、24時間蓄尿検査にて推定される蛋白摂取量や塩分摂取量をフィードバックすることが大切です。
自己流の食事療法は危険であり専門医の診察と指導が必要です。
当院のホームページに「腎臓病食レシピ」に腎臓病療養指導士の資格を持つ管理栄養士が作成した40種類のメニューレシピを掲載しています。
腎臓内科外来では、机上の栄養指導だけでなく、患者さんとの食事療法の講習会、近隣レストランでの低蛋白食のラグジュアリーランチ会を定期的に開催し患者さんに適切な食事療法を行っています。
以上、CKDの治療として食事療法と薬物療法について述べました。
当科では、腎臓病療養指導士の資格を有する看護師、管理栄養士、薬剤師によるチーム医療で総合的に対応し、透析にならないように多くの患者さんと一緒にCKDに取り組んでいます。