診療について
薬剤部 薬剤師 上坂 麻樹
頻尿の原因は様々ですが、過活動膀胱,残尿(排尿後にも膀胱の中に尿が残ること),多尿(尿量が多いこと),尿路感染・炎症,腫瘍,心因性に分けることができます。中でも頻度の多い原因は過活動膀胱であり、日本で1000万人以上の男女が罹患しています。
「尿意切迫感」があり、「頻尿・夜間頻尿」や、時に「切迫性尿失禁」がある状態を過活動膀胱といいます。膀胱に尿が十分に溜まっていないのに、膀胱が自分の意思とは関係なく勝手に収縮するために起こります。
・尿意切迫感
それまで何もなかったのに、突然トイレに行きたくなり、がまんが難しい症状。
・頻尿・夜間頻尿
日中8回以上トイレに行く症状。夜に1回以上トイレに起きる症状。
・切迫性尿失禁
急におしっこがしたくなり、トイレまでがまんできず、漏れてしまう症状。
過活動膀胱の方は、次のような病気や症状を併せ持っていることがあります。
前立腺が徐々に肥大することにより尿道が圧迫されて、尿の勢いが弱い、尿が出るまでに時間がかかる、途中で尿が途切れるなどの症状が現れます。治療は前立腺や尿道の筋肉の過剰な収縮を和らげる薬を用いたり、手術で尿道を圧迫している前立腺を削り取ったりします。
咳やくしゃみをした時、重いものを持った時、坂道を上り下りした時などに尿が漏れる症状です。薬や骨盤底筋体操で十分な効果が見られないときには尿道を吊り上げる方法などをすることもあります。
大きく分けて、行動療法と薬物療法があります。
1. 膀胱訓練
トイレに行きたくなっても我慢する訓練で、膀胱の容量を増やすために行います。排尿日誌(下記参照)を見ながら、ためられる尿の量をだんだん増やしていきます。毎回がまんするのが大変な場合は1日1回と決めて訓練します。また、がまんする間隔の目標を例えば2時間に設定し、徐々に目標を増やす方法(定時排尿)や、日誌から自分の排尿の習慣にあった排尿時間を決める方法(習慣法)も有効です。
2. 骨盤底筋体操
骨盤底筋とは骨盤の最下部(底)に位置する筋肉です。骨盤底筋体操を行い、骨盤底筋を鍛えることにより、尿もれの改善や予防に効果があります。即効性がある訳ではありませんが、2〜3ヶ月間継続的に取り組むことで尿もれの予防に一定の効果が期待できます。詳しいやり方については、YouTube等の動画サイトで検索して確認してください。
1. 抗コリン薬(ベシケアOD錠,ウリトスOD錠,デトルシトールカプセル,トビエース錠など)
昔からよく使用されている薬剤です。膀胱がむやみに収縮するのをおさえ、その容量を大きくし、たくさん尿がためられるようにします。尿意切迫感をはじめ、尿の回数が異常に多い頻尿、夜間頻尿、急な尿意のあとの尿漏れなどの治療に用います。効果の高い薬ですが、副作用として、口腔内の乾燥や便秘が多くみられます。他に、かすみ目,腹痛,頭痛,眠気,尿が出にくい,めまい感などもみられることがあります。抗コリン薬のうちでも比較的新しい薬は、服用回数が1日1回でよいものや、副作用が軽減されているもの、さらに貼り薬もあります。
2. β3作動薬(ベオーバ錠,ベタニス錠)
近年発売された薬です。抗コリン薬とは異なり、口腔内の乾燥や便秘が起こりにくいという特徴があります。服用回数も1日1回でよく、最近は抗コリン薬に代わって処方されるようになっています。しかし、心拍数を増加させることがあるため、心臓の病気がある方には慎重に使用する必要があります。
※なお、前立腺肥大症がある場合は、その治療薬を優先して用いることが多いです。
・ ノコギリヤシ
夜間の頻尿など、前立腺肥大症の諸症状を緩やかに改善する働きがあるとみられています。症状の改善がみられるまで1~2ヵ月継続して摂取する必要があります。あくまで、男性であり、さらに頻尿の原因が前立腺肥大である場合にのみ効果が期待できます。
・ ペポかぼちゃの種
ノコギリヤシと同様に、前立腺肥大による頻尿などの改善に役立つことがあります。過活動膀胱の改善にも効果が期待できるという可能性はありますが、現状として科学的データは不十分です。
頻尿がある場合は、利尿作用のあるカフェイン摂取は避けましょう。カフェインはコーヒーや紅茶のほかに、煎茶,コーラ,エナジードリンク,ドリンク剤等に多く含まれます。特に夜間の摂取は、夜間頻尿が悪化するばかりではなく、不眠の原因となることがあります。また、血液をサラサラにしようと夜間に水分を過剰に摂取される方がいますが、過度の飲水は尿量を増やすだけですので避けましょう。
頻尿が気になる際には、排尿日誌をつけてみることをお勧めします。トイレに行った時間と排尿の量、水分を摂った時間と量などを3日ほど記載します。もし、明らかに水分を多く摂取しているようであれば水分摂取の調節により改善しますが、病気に関わるような場合は原因を明らかにして、その原因に応じた適切な治療や対処をする必要があります。原因が思いあたらない場合には、医療機関を受診することをお勧めします。
排尿日誌は泌尿器科の病医院や調剤薬局等で配布していますが、下記ホームページからダウンロードすることもできます。