診療について
原泌尿器科病院 診療部長 山道 深
前立腺肥大症の患者は、日本で39万8千人(平成14年、患者調査)と言われています。その多くは、50歳以上の中高年男性です。原因は、男性ホルモンが関与しており、中高年になり、男性ホルモンを含むホルモン環境の変化ではないかと言われております。前立腺肥大症の代表的な症状としては、排尿困難、頻尿、尿意切迫感、残尿感などがあります。
治療法はまずは薬物療法を行いますが、症状改善が乏しい場合や肉眼的血尿、尿閉、膀胱結石の併発などが見られた場合は手術療法の適応になります。
手術療法には、現在でもゴールドスタンダードである電気メスを用いて前立腺を切除する経尿道的前立腺切除術(TUR-P)、レーザーを用いて、肥大した前立腺をくり抜くホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)、前立腺をレーザーで蒸散させることで、前立腺部尿道を広げる光選択的前立腺レーザー蒸散術(PVP)、接触式レーザー前立腺蒸散術(CVP)があります。
TUR-Pは大きな前立腺では出血が多くなり適さない事、HoLEPは術後尿失禁の頻度が高いこともあり、当院では手術侵襲の少ないCVPを2019年7月より導入しております。
前立腺肥大症の各術式の比較を表に示します。
全身麻酔(場合により腰椎麻酔)で行います。CVP専用の内視鏡を尿道から挿入し、レーザーファイバーで前立腺表面から蒸散させて、前立腺部尿道を広げ、最後に、尿道カテーテル留置し終了となります。
当院ではCVPを2019年7月に導入し、2022年4月までで、115例の手術を施行しております。手術時平均年齢は71.8歳(55歳~86歳)、術前前立腺平均体積73.73cm3(15.00cm3~232.56cm3)、平均手術時間75.10分、術後平均尿道カテーテル留置期間3.31日、術後平均入院期間4.78日でした。手術前Hb(ヘモグロビン)13.8g/dl、手術後1日目Hb13.5g/dlでした。
合併症は一過性尿閉8例(7.0%)、急性前立腺炎7例(6.1%)、膀胱結石2例(1.7%)、膀胱頸部硬化症1例(0.9%)でした。尿失禁は認めませんでした。
国際前立腺症状スコア(IPSS score)は手術前14.85±8.24、手術後3ヶ月3.19±2.56(p=0.000)、手術後6ヶ月3.90±3.09(p=0.000)、手術後12ヶ月3.54±2.99(p=0.000)、 QOLスコアは手術前4.46±1.22、手術後3ヶ月2.19±1.93 (p=0.000)、手術後6ヶ月2.37±1.87 (p=0.000)、手術後12ヶ月2.29±1.90 (p=0.000) と手術前に比較し、手術後3ヶ月以後、自覚症状の改善を認めました。
尿流量測定については、最大尿流量率、残尿量は各々手術前9.94±7.64ml/s、140.99±165.43ml、手術後3ヶ月14.56±10.61ml/s(p=0.016)、27.02±38.83ml(p=0.000)、手術後6ヶ月14.80±7.54ml/s(p=0.014)、35.35±53.27ml(p=0.000)、手術後12ヶ月23.77±23.32ml(p=0.006)、33.79±50.28ml(p=0.001)と手術前に比較し、術後は最大尿流量率、残尿量とも改善を認めました。
CVP導入後、短期間の治療成績は、手術前に比較し、有意な改善を認めております。長期の治療成績については、まだ結論は出ておりませんが、術中出血量も少なく、入院期間、尿道カテーテル留置期間も短期間であることから、特に高齢者の方にも安全に施行できる手術と考えます。