診療について
栄養科 主任管理栄養士・腎臓病療養指導士 桝田裕子
寒からず、暑からず過ごしやすい季節になりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?管理栄養士の桝田です。気温が上がり、汗をかきやすいこれからの時期に発症しやすい疾患に「尿路結石」があります。尿路結石は尿の中の物質、シュウ酸、リン酸、カルシウム、尿酸などが複雑に絡み合って結晶化されたもので、最も多いのがシュウ酸カルシウム結石と言われています。今回はシュウ酸カルシウム結石の再発を防ぐ食事の中で、カルシウムとシュウ酸についてお話させていただきます。
私たちは、食事をすると胃で食物を分解、栄養素を腸で吸収し、血液を通して全身に循環させています。そして、全身から集められた血液は腎臓で濾過され尿の元が作られます。偏った食事や、カルシウムが不足していると、シュウ酸は消化・吸収され、体内で不必要なものとして尿に排泄されます。シュウ酸カルシウム結石と聞くと、カルシウムが悪者のように思われるかもしれませんが、図1のように腸内にカルシウムがあると、
①シュウ酸とカルシウムは腸の中で結合し、便として排泄されます。
②大半のシュウ酸は便に排泄されたので、血中に吸収されるシュウ酸は少なくなります。
③尿中のシュウ酸が少ないので、シュウ酸カルシウム結晶が少なくなり、結石のリスクが減ります。
しかし、カルシウム摂取量が少ないと図2のように腸内にカルシウムが少ないため、
①シュウ酸はカルシウムと結合できず、血中へ吸収されます。
②便にシュウ酸が排泄されなかったので、血中に吸収されるシュウ酸が多くなります。
③尿中のシュウ酸が増加しているので尿中のカルシウムと結合し、シュウ酸カルシウム結晶が増え、腎臓内に結石が作られます。
つまり、カルシウムを摂取した方が結石ができにくいという事です。シュウ酸は様々な食品に含まれているため、1日600~800㎎を目標に食事ごとにカルシウムを意識して摂取する事が、再発予防に効果的です。
牛乳…普通牛乳コップ1日1杯が目安(飲み過ぎは動物性脂肪が多くなるため注意!)
ローファット牛乳は脂質が少なく、カルシウムが多いためコップ2杯でもOK。
ヨーグルト…100~150gが目安(加糖タイプの場合は糖分が多くなるので摂取量注意)
チーズ…カッテージチーズは食塩量も脂質も少ないのでお勧め。サラダに振り掛けると気軽に食べる事ができます。
プロセスチーズは食塩量が多いので1日1ケ程度にしましょう。
ちりめんじゃこ…お浸しにする場合、食塩量が多いので味付けは控え目に。
小魚の南蛮漬け…酢は体内でカルシウムの吸収を高める働きがあるのでお勧めです。
小松菜、モロヘイヤ、青梗菜、ひじきなど。
ごま…すりごま(硬い殻のままでは吸収が悪い)。ごまあえ、ご飯にかけるなど。
硬水…カルシウムやマグネシウムなどのミネラルを多く含む水の事で、日本では一般的に硬度※
301mg/L以上を「硬水」、101~300㎎/Lを「中硬水」、100mg/L以下を「軟水」と呼んでいます。海外の水は硬水が多く、日本の水は一部の地域を除いて軟水です。飲水をすべて硬水にすると商品によってはカルシウム過剰摂取になる可能性があるため、利用する場合は1日500ml程度にしましょう。
※硬度(㎎/L)=(カルシウム量(㎎/L)×2.5)+(マグネシウム量(㎎/L)×4.1)
ほうれん草、筍、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、未熟なバナナ、ピーナッツ、アーモンド・チョコレート・ココアなどにシュウ酸は多く含まれています。
シュウ酸は水溶性なので、野菜は茹でることで減らす事ができます。食べる大きさに切ってからたっぷりのお湯で茹でると溶けだしやすくなります。
シュウ酸は様々な食品に含まれており、食べないようにする事は不可能です。食べてはいけないではなく、「切ってからたっぷりの湯で茹でる」「食べる量や頻度を減らす」「カルシウムと一緒に食べる」事が大切です。
飲み物では、緑茶(特に玉露・抹茶)・紅茶・ウーロン茶・コーヒーに多く含まれています。一方、麦茶やほうじ茶は少ないので安心して飲むことが出来ます。結石予防には飲水が推奨されています。味がない水を飲むのが苦手なかたは、麦茶やほうじ茶を選ぶとよいでしょう。
また、紅茶やコーヒー・ココアには牛乳を加え、1日に何杯も飲まないなど注意すれば楽しむことは可能です。
食事療法はご自身でできる治療法です。このコラムを参考に一つでも取り入れ、尿路結石再発予防に取り組んでいただけたら幸いです。